green_mile僕らは、何よりも仕事を優先しろという
無意味な価値観を刷り込まれて大人になりました。

これは僕は囚人のように働いていた時期のお話です…。






僕はとあるレンタルビデオ屋で
6年間アルバイトをしました。


来る日も来る日もレジに立ち1日100人近いお客を接客し
人気の作品が返却されるとそれを大急ぎで棚に戻しにいき


時間と労働力を切り売りして
時給850円ほどもらっていました。



寒暖差が激しく、風邪を引きやすい
冬の寒い日の事でした。


僕の出勤時間は朝だったんですが
冬の朝の出勤はキツいです。


朝は、温かくてぬくぬくの布団で気持ちよく寝ている所を
携帯の目覚ましアラームで強制的に叩き起こされ


冷たいフローリングの廊下をつま先歩きしながら洗面所に向かい
暖かい装備を仕事しやすい恰好に着替えさせられ


時には凍り付く車のフロントガラスを熱いお湯で溶かしてから
路面凍結してる道路にビクビクしながら職場へと向かいます。



職場に着くと、仲間達が
まるで怨念のようにお決まりの言葉を漏らします。


「あぁ……帰りたい…仕事したくない」


その言葉に対して僕は必ずこう答えました。


「よし!帰ろうぜ!焼肉を食べにいこう!」


仲間達は僕の返しに対してハハッと小さく笑います。
もちろん、僕も仲間達もそんな事出来ない事は解ってます。


僕たちは時間を売る『労働者』だからです。
定められた時間は労働力を提供しなくてはいけません。




まるでグリーンマイルを歩く囚人のように
スタッフルームから売り場への薄暗い廊下を歩きました。
thegreenmile

「俺は、ロースがいいな」(ボソッ)

「お酒が飲めればなんだっていいや」

「でも、最強は焼肉よりカレーだよな」

「みんなで帰っても○○さん一人いれば大丈夫だよねww」

「俺、そんな素早さ兼ね備えてねぇぞ!ww」




僕らの妄想物語は、お店がオープンして
お客が店内になだれ込むまでの間、続けられました。



『帰りたい』『自由になりたい』『恐怖から逃れたい』



そんな僕らの願いは
監獄の囚人達が描く、外の世界への憧れに似ていました。
放った所で虚しく雑踏にかき消されるほど脆い願いです。


お店がオープンすると恐怖の時間がスタートします。


僕が特に恐れていたのは接客でした。


僕が住んでいた地域は治安が良くなくガラが悪い事で有名です。
僕は「接客」というものに対して底知れぬ恐怖を感じていました。


いつ、どのタイミングで、どの角度から、
頭に血を登らせて真っ赤に震えて客が
大声で怒鳴りながらやってくるか解りません。


夜の森で、獣の声を遠くで聴きながら一夜過ごすようなもんです。
ビクビクとした恐怖はあっても安心も油断もありません。


仲間達も、ピリッ!と空気を換えて緊張感を走らせます。




職場には「連絡ノート」というものがあります。
スタッフ間での情報共有に用いられるノートです。


その日のノートにはこう書かれていました。



「どんなに体調が悪くても出勤せよ」




風邪を引くのは、引く奴が体調管理をしないのが悪い。
シフトの代わりが見つからない限りどんなに体調が劣悪でも出勤せよ。
体調が悪ければ、単に自分が辛い中で仕事することになるだけ。


その文字が目に入ってきた時。
どうしようも無い虚しさと、切なさが胸をえぐりました。


体調管理のプロのトレーナーが着くアスリートでも
風邪を引いてしまう事はあります。


個人の体調管理なんか限界があるし、たかが知れてます。


しかし労働者は休む事は許されません。
ノートに書かれている事は間違いでは無く、正論です。


「時間」と「労働力」を売る者は
休む事や信頼を失う事は、生活の崩壊へと直結します。




2011年の夏に、僕は体調を崩しました。


始めは風邪気味だな…という程度の状態でした。
しかし、風邪を引いたスタッフの代わりにシフトに入ったり
その最中に犬が死んだりした精神的ダメージもあって


結果として熱は最大で39.6℃まで上がりました。


意識が朦朧とし、夏なのに寒気が止まらずブルブルと震え
そんな熱が引かない謎の病が2ヶ月続きました。


しかし、当然ながら僕らは休む事はできません。
「時間」を任されているからです。


朝からお腹が痛くて、何度もトイレに駆け込む状態でも
定時には出勤して売り場で過ごさなければいけません。


「時間」を任される者は、
同じ時間を提供できる者を探さなければいけません。


それを放棄した時、職を失い、お金を失います。


だからよっぽどの事が無い限り、
誰もがそのルールを当たり前のように強要され
「ふざけんな!」と思っていてもそれを守り続けるしかないんです。




その日、僕は寒さのせいもありお腹を下していました。
空腹でも無いのにギュルルル~とお腹が鳴りました。


「座り込みたい」「横になりたい」

というか「トイレにいきたい」


そんな欲求を描いていても、ふと顔を上げると
サッカーゴール二つ分くらいの長さにお客の列ができています。


隣のレジでは新人の女の子が怒鳴られています。
助けにもいかないといけません。


仲間達ももしかしたら、体調不良や眠気を抑えて
必死に頑張っているかもしれません。


僕だけが売り場を放棄するわけにもいきません。


ただでさえ、少ない人数で回してるレジから
一人店員が減って待ち時間がさらに伸びる事に
お客さんも良い顔をしないでしょう。



結局、僕がトイレに駆け込めたのは
一時間半後の休憩時間でした。



まだまだ、労働時間の折り返しにもなってない…。


エアコンとみんなの食事で異臭を放つスタッフルームに戻り
携帯電話を開いてメールチェックをしたら。



1,6000円のアフィリエイト報酬が発生していました。




ほったらかしのブログからの売り上げです。
売れた商品は1本でした。

ネット上に作られた仕組みの中で、


トイレを我慢し寒さに耐え恐怖に脅えて過ごす8時間で
ようやく稼ぎ出せる額の3日分相当の収入が発生していました。


自動化の仕組みの中で生み出される収入は
僕の労働力や時間と関係の無い場所で発生するので
僕が何処でどんな時間を過ごしていてももたらされます。


朝はぬくぬくとベッドの中で二度寝して
昼頃にモソモソと起きてお腹が痛いからトイレに行って
リビングでこたつの中でニュースと映画を観て


窓で寒さを遮断された暖かい空間でウトウトと眠りについても


商品が1本売れればバイト1日の数倍の収入が発生します。




1万5千円あれば何ができるでしょうか?


焼肉なんか、お腹が張り裂けるほど食べても3回くらい行けます。
カレーのディナーなら10日くらい連続で食べれます。


3日分、バイトのシフトを減らして家族とゆっくり過ごせます。
欲しかったけど我慢してた本やDVDがたくさん新品で買えます。
寒かった部屋に暖房と加湿器を設置できます。



アフィリエイト報酬が発生したのは
この時が初めてではありませんでした。


初めて報酬が発生した時はそんな妄想をしたもんですが
今回は別の感情が僕の胸を締め付けました。


喜びよりも、虚しさが勝りました。





「『仕事』ってなんなんだろ……?」





仕事のルールはこういうもんだ!
社会のルールはこういうもんだ!


という、誰かが作ったルールを強要されて生きていく事を
当たり前だと信じ込んでる人がいます。


僕も間違いなく、そうでした。



しかし、それは監獄の中で暮らす為のルールです。
監獄の中で生かされる為のルールです。




ボコッと僅かに崩れた監獄の塀の隙間から
新鮮な空気と暖かい木洩れ日が差し込み


壁の外に自由な青い空が広がっている事を
その日、僕は、垣間見ました。
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